東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)58号 判決
事実及び理由
一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。
二 取消事由(1)について
1 引用例にA′構成の記載があること、本件考案のA構成における袋体が、一方が閉じられていて他方に開口を有する、中に物を入れたり、物に被せたりすることができるような構成を意味することは当事者間に争いがない。そして、室内ユニツトのカバーとして右袋体を構成する場合合成又は天然繊維による布地を用いるのが通常であると解せられるのであるが、要は右のような構成を備えたカバー状のものであれば、その製法、使用する布地の種類、枚数等にかかわりなく袋体であると認めて差支えないものというべきであるから、カバー体とその背面開口の周端縁に袋帯体7をめぐらしカバー体に縫着した引用例におけるA′構成も袋体としての構成を有するものということができる。
2(一) 成立に争いのない甲第二、第三号証によれば、本件考案は、(イ) 秋、冬などのルームエアコン不使用時に室内ユニツトを放置したままの状態で露出しておくとほこり、ちり、湿気が侵入し、夏の使用時における故障の原因となるため、ほこり、ちり、湿気の侵入を防止すること、(ロ) 構造が簡単で着脱が容易であること、(ハ) 室内装飾にも役立つことを目的としていること、これに対し、引用例記載の考案は、(イ) シーズンオフに露出のまま放置されている室内ユニツトをカバーして保管し、故障の原因となるエアーフイルターの塵埃による損傷を防止すること、(ロ) 構造が簡単で廉価であり挿込みやすいこと、(ハ) 室内装飾をも兼備することを目的としていること、両考案ともその主目的がいずれも(イ)の点、即ちルームクーラー不使用時に室内ユニツトを露出状態で放置しておくことによつて微細な異物侵入による故障を防止することにあり、特に本件考案においては湿気の侵入防止の点を明示していることが認められる。
(二) そこで、本件考案のA構成において、カバーを吸湿性の織布で作つたことにより、異物、特に引用例に明記されていない湿気の侵入による故障防止のため顕著な効果を認めることができるかどうかについて検討する。
(1) 湿気が室内ユニツトに侵入すること自体を防止するためには、カバーが吸湿性であることは必ずしも必要ではなく、湿気を貫通させない非吸湿性の織布によつてもその目的を達し得るものということができる。
また、前掲甲第二号証によれば、本件考案の実施例である第一ないし第三図は室内ユニツトの背面がカバーで覆われておらず、右背面と室内ユニツトが取付けられた壁面との間に空間があることが認められるのであるから、吸湿性の織布により室内ユニツトの正面、上下面、両側面を覆つたとしても、これによつては右背面空間からの湿気の侵入を防止することができないことは明らかである。
更に成立に争いのない甲第四号証に示された実験結果は室温四〇度ないし八〇度、湿度九〇パーセントという環境下における半導体部品の故障率に関するものであり、設定された環境は通常室内ユニツトが設置されている環境とは著しく条件を異にしているから、右甲第四号証から直ちにルームクーラーに内蔵された半導体回路についても同様の故障現象が生ずるものとは断じがたく、現に原告主張のようなルームクーラーに内蔵されている半導体回路が湿気により故障、誤動作を起こしたことを認むべき証拠はない。
(2) かように、本件考案において吸湿性の織布で作つたカバーによる半導体回路の故障等の防止効果を認めることはできないし、他に吸湿性の織布を用いることによつて奏せられる室内ユニツト保管上の顕著な効果を認むべき証拠もない。もつとも、大量の湿気が物品を腐蝕させるおそれのあることは広く知られているところであるから、吸湿性織布により室内ユニツト内へ湿気の侵入を防ぐこと自体無意味なことではないが、その効果が右の一般的な限度をこえるものかどうかは明らかでないし、右の程度の効果であれば必ずしも吸湿性の織布によらずとも達することが可能であり、引用例記載のA′構成による「適宜の生地」により形成されたカバーによる効果とさしたる差異はないものというべきである。
(三) 次に、カバー自体の汚れ防止による室内装飾効果については本件考案の公報(前掲甲第二号証)になんらふれられておらず、前掲甲第二号証によれば、本件考案は、袋体の素材を適当に選定し、右素材自体の美観によつて室内装飾効果を得ることを期待しているにすぎないことが認められる。他に原告主張のようにカバーの汚れ防止により格別の室内装飾効果を奏することを認めるに足りる証拠はない。もつとも、湿気がカバー表面に残存することによつて、ほこり、ちりの付着の程度が高くなるということが全く考えられないではなく、吸湿性の織布をカバーとして用いることによつてかかる現象をある程度さけ得るとしても、右のほこり等の付着の具体的程度は明らかでないし、非吸湿性の織布を用いた場合において、時折付着したほこり等を拭取るなどすれば、カバーとしての美観を保つことは容易であるから、吸湿性の織布を用いたことによる右のような効果が特別顕著なものであると認めることはできない。
(四) 以上述べたように、室内ユニツトカバーとして吸湿性の織布を用いることの効果として期待されるものがあり得るとしても室内装飾の程度にとどまるのであり、かつ適宜の生地から作られた室内ユニツトカバーが引用例記載の考案により公知である以上、吸湿性の織布を用いて右カバーを作り、右のような効果を得ようとすることは、当業者としてきわめて容易に着想し得るところというべきである。
3 このように、原告主張の取消事由(1)はいずれも理由がない。
三 取消事由(2)について
引用例にB′構成の記載があることは当事者間に争いがない。
前掲甲第二号証によれば、本件考案のB構成において取付具が取付けられる「袋体の口縁」とは袋体の開口部の端縁を含む部分を指すものであるが、その取付けられる奥行の程度及び取付具の種類については限定が付されていないことが認められる。そして、引用例のA′構成のカバー体及び袋帯体7が全体として袋体を形成していることは既に述べたとおりであり、引用例のB′構成における伸縮帯8が本件考案のB構成における取付具に相当すると認められるから、結局引用例のB′構成は、袋体の一部である袋帯体7の開口部の一部に取付共の一種である伸縮帯8が介在附装して取付けられている構成を示しているものということができる。そうであれば、本件考案のB構成と引用例のB′構成との間に格別の差異を認めることはできないのであり、原告主張の取消事山匂は理由がない。
四 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註〕本件考案の要旨は左のとおりである。
吸湿性の織布で作つた袋体の口縁に於ける適宜箇所に取付具を設けたルームエアコン室内ユニツトカバー。